マスクを電鍋で洗浄してみた!その① 耐熱温度は何度?
ここ数か月、新型コロナウイルスの影響でマスクの入手が困難になっております。手作りマスクなどが普及しつつある中、使い捨てマスクの再利用方法に関するニュースが話題になりました。どうやら使用済みのマスクをそのまま電鍋(電気鍋)に入れて加熱洗浄するといった方法のようです。
そこで、我が家も使い捨てマスクの在庫が少なくなってきていたため、早速ネットショッピングで電鍋を注文しました。
Fig. 1:マスクと電鍋
~次の日~
翌朝、妻から「マスクが溶けたー!!」とたたき起こされました。その時の写真がこちらです。
Fig. 2:溶けた2種のマスクの写真
話を聞いてみると、どうせ殺菌するなら温度が高いほうが良いだろうと思い190~220℃で8分加熱したそうです。(ネットには110℃で8分というレシピが載っていました。)その後、レシピ通り設定することにより無事変形せずにみました。
ふと気になりネットで調べてみると、マスクの不織布の原料にはポリエチレンやポリプロピレンが使用されているそうです。
今回の新型コロナウイルスに関連した騒動で、熱分析も何か役に立てることはないかと模索していたのですが、ついに役に立つ(?)時が来ました。
使い捨てマスクの耐熱温度は何度?
ポリエチレンやポリプロピレンに200℃も温度をかけてしまうとFig. 2のように溶けてしまいます。この2つの融点をネットで調べてみると様々な温度が表記されています。実はプラスチックは同じ名前で表記されていても、分子量・密度・結晶化度などによって融点が異なります。
それでは早速我が家にあった原料がポリプロピレン製のマスク(サージカルマスクが推奨されているようですが、原料は同じようなのでこちらで実験しました。)をDSCという分析装置で測定してみました。
Fig. 3はマスクの不織布部分を切り抜いてDSCで測定した結果です。グラフをすごく簡単に説明しますと、横軸は温度を表しています。折れ線グラフが下に行けば行くほどマスクは溶けていることを意味します。
Fig. 3:マスク不織布部分のDSC結果
この結果を見ると、このマスクの補外開始温度は159.1℃、ピーク温度は162.7℃になっており、融点もこの温度付近です。
しかしチャートをよく見ると、96.2℃付近から下向きのピークは開始しております。この現象は不織布の融解開始もしくは水などが気化したことなどが推測されます。
以上の結果より、
① 今回測定したマスクの融点は約160℃
② 約100℃付近から融解開始が始まっている可能性がある
つまり、今回のマスクを洗浄する際は160℃以下に電鍋の温度を設定する必要があります。
次にDSCを電鍋代わりにして20℃/minで昇温し110、130、150、160℃で8分間保持加熱したものを観察しました。
Fig. 4:保持温度とDSCデータ
Fig. 5:デジタルマイクロスコープ 倍率×200
サンプルが繊維状のため焦点が合っておらず、よくわかりませんでした。ただ、160℃に加熱したものは繊維が確認できないためDSCの結果とよく相関が得られていると思います。
次に電子顕微鏡の写真です。熱履歴をかけないようスパッタ等はせずそのまま測定しています。
Fig. 6: 電子顕微鏡 加速電圧5kV 倍率×100
デジタルスコープの写真と同様150℃までは繊維が確認できます。また温度が高いほど繊維の間隔が狭くなっているように見えます。
つまり、温度をかけるとドロドロに溶けてしまう前に繊維全体が収縮しているのでは?ということが示唆されます。この温度における繊維の収縮挙動はTMAが最適ですので、次回実施してみます。またマスクの種類によっても挙動は変わることが予想されます。
最後に電鍋のマスク洗浄は台湾の衛生福利部食品薬物管理署による検証で細菌透過率が99%以上維持されていることが根拠で、微粒子ろ過率は加熱回数で徐々に低下することも検証されている、とのニュースも耳にしました。非常に興味深いですね。
(次回)電鍋でマスクを加熱してみた
参考元:
中央通訊社、中央通訊社(中国語)
※この実験はマスクの品質、および消毒効果を保証するものではございません。
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その① 耐熱温度は何度?
その② 電鍋でマスクを加熱してみた
その③ 電鍋の温度を調べてみた