「ふ号」熱分析

2023.02.08
こんにちは、ネッチ・ジャパンの篠田です。
来週からリスボンとウィーンの出張が待っておりまして、それを新しいブログのネタにしようと目論んでおりました。 ところが、つい先日中国の偵察または気象気球を米軍の戦闘機がミサイルで撃ち落としたことについてコメントしないわけにはいきません。気球撃墜の映像を見て、旧日本軍が大戦末期に放った風船爆弾を米国沿岸で撃ち落とした記録とシンクロした人は多いと思います。風船爆弾とは“ふ号作戦”と言って、焼夷弾をつんだ気球を大量に放ち、ジェット気流にのせて米国本土を爆撃しようとした苦肉の策でした。 1万機近くを放って、300近くが到達して山火事など起こしていたようです。
実際の損害は寡少だったようですが、かなりの脅威感を米国に強いたという意味で成功した作戦だったと思います。
惜しむらしくは大型焼夷弾1発だけを搭載していたことで、複数の小型の焼夷弾搭載の方が効率的だったと子供の頃に読んだ本に書いてありました。 今回の気象or偵察気球はモーターによる位置制御ができるようなのですが、風船爆弾はバラストの自動投下機能で高度制御する巧妙な仕組みを備えていました。(バラストの砂の組成分析から製造場所を特定されてしまいましたが) 何より興味深いのは、気球本体の素材です。当時の気球は水素を用いておりましたので、水素を透過しない素材として、和紙をこんにゃく糊で張り合わせた材料、戦後も“気球紙”として知られているものが開発されました。張り合わせるにあたって、繊維の方向を縦横と互い違いに積層させてかなりの強度を実現できたようです。 和紙とこんにゃく糊の組み合わせは古く、張り合わせたものを柿渋で防水加工した紙子(かみこ)として使用されていた源平合戦以前にさかのぼります。戦国時代にも、戦(いくさ)前の博打に負けて鎧兜を全部すってしまった侍が、紙子羽織で戦に臨み、大功をたてた、という記録がのこっているそうです。それなりの強度があって軽いので、きっと敏捷な動きができたのだと思います。 このような日本の伝統的な複合材料に触発されて、環境への負荷の小さい新素材が今後どんどん開発されていくことと思われます。気球紙も、水素社会に使える意外な素材だったりするかも知れません。
そこで、「気球紙作ってみた」と「気球紙を(熱分析装置で)測ってみた」を今後の企画としてやってみようと思います。
すぐに思いつくDSC測定TMA測定のみならず、多層材料の面内熱拡散率測定、こんにゃく糊のレオメーターの粘度測定も含みますので、なかなか多角的な視野を得ることができます。グルコマンナンおよび水溶液そのものの熱測定では、その道の素人なのがバレますので、いつも通りの隙間狙いです。
和紙としては、美濃紙や阿波和紙など和紙の種類を変えて物性の違いをみてみるのも面白いと思いますが、こんにゃくの原産地は群馬県で一択ですね。 ひと呼んで「ふ号」熱分析。ご期待ください。
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